おすすめ図書の紹介(2018年11月)

 私がここのところ好きなのは時代物。戦国時代から江戸、明治初期に至る庶民や武将の生き様を描いたものがおもしろい。時代背景はそれぞれ、後世に名を残した人もそうでない人も、ひとり一人が一生懸命に生きてきた、その過去の上に今の私たちの暮らしが脈々と続いている、そんなことを考えると教科書に載っている武将にすら親近感を覚えたりして、すっかり小説の世界観に入り込んで楽しんでいる。ちょっと大げさな言いかたになったが、軽く読めて面白かったのが和田(わだ)竜(りょう) 作『のぼうの城』。これは映画の脚本を小説化したもので、舞台は秀吉の北条氏討伐で唯一落ちなかった忍城(おしじょう)の攻城戦。大柄であまり賢くない当主の従弟(のちの城主)である成田(なりた)長親(ながちか)が主人公。農繁期には田畑の手伝いにやってくるような、偉ぶらず気さくな人柄。しかし不器用でほとんど作業の邪魔をしにくるような有様なので「でくのぼう」を略して「のぼうさま」と領民から呼ばれ、「俺たちがついていないと」という思いにさせている。

 時は天正十八年、秀吉が小田原の北条家討伐の軍令を発し、石田光成には北条家の支城にひとつである武州忍城攻めを命じていた。これについては裏話があるがそれは置いといて、十倍を超える兵が水攻めという手法で攻め込んできた。この一風変わった攻め方も、細かな描写からその情景が頭に浮かび、水臭い匂いまで感じられてとても面白い。そして武将も農民も一体となって一月以上も籠城を重ね、ついに…ここはネタバレになるので省略。

 私が特に好きな場面は長期戦となり、結局話し合いで決着をつけようと敵側から軍使としてやってきた長束(なつか)正家(まさいえ)の高飛車な態度に、長親の怒りが爆発した場面。

『強き者が強きを呼んで果てしなく強さを増していく一方で、弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、一片の誇りを持つことさえも許されない。小才のきく者だけがくるくると回る頭でうまく立ち回り、人がましい顔で幅をきかす。ならば無能で、人が良く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。「それが世の習いと申すなら、このわしは許さん」』と一喝した場面。あ~すう~とした(笑)。

(事務局 K)