おすすめ図書の紹介(2018年10月)

五木寛之著『青春の門』シリーズ

                            所長  川崎 弘

 私が高校生の頃から40年に渡って読んでいるシリーズです。最終巻といわれていた第9部漂流篇が、昨年から『週刊現代』に連載され、今年の7月14日号で終結しましたが、続きがあることを意識させる、すっきりしない終わり方でした。最終回終わりの著者のコメントにも、第10部執筆をにおわせている表現がありましたので、未完であることは事実のようです。

 福岡県筑豊の炭鉱町で生まれた伊吹信介と、幼馴染の牧織江を中心に、多くの人間が絡み合いながら、挫折を繰り返しながらも信介が成長していく物語です。著者の五木寛之が1932年生まれですので、小説の時代背景、信介の年齢はほぼそれにならいます。戦中、戦後、そして高度経済成長前夜あたりまでの、まさに激動の時代を生き抜く躍動感があります。

(第9部が終了した時点で、信介の年齢は26歳)

 さきに40年に渡って読み続けていると書きましたが、著者が執筆を始めたのが1969年で、86歳の現在も未完ということですから、50年近くにわたり執筆されていることになります。

 私が第1部筑豊篇から第3部放浪篇を読んだのは、高校生の頃、まさに思春期真っ只中、ドキドキしながら親の目を盗み読んだ覚えがあります。55歳で第9部を読むにあたり、第8部までを読み返しました。(第8部風雲篇まではサピエに所蔵、第9部漂流篇はこれから単行本、または文庫本が発行されますので、サピエ所蔵はそのあとになります。)

 さすがにドキドキ感は薄れましたが、結構、勝手な生き方をしているんだなあと感じます。年を経るごとに読後感は変わりますが、飽きることはありません。必ず新たな発見があるのも面白いものです。単発の本ももちろんいいですが、秋の夜長、こんな大河的な書物で眠りにつくのはいかがでしょうか。昭和にタイムスリップするのもいいものです。