おすすめ図書の紹介(2018年7月)

 伊坂幸太郎作品の面白さは、あちこちに引いた伏線を竜巻のように回収していく気持ちの良さと、登場人物の魅力だろう。言葉遊びのように交わされる会話や、作品間でちらほら顔を出す癖のある脇役的登場人物。いくつかの作品を読む事でも新たな面白さを感じられる。

(生活支援担当 K)

『ラッシュライフ』新潮文庫(2005年)

章ごとに次々と切り替わる数日間。仙台駅展望台前で数人の男女が間接的に出会い、それぞれの人生に少しだけ影響し合う。バラバラ殺人事件が、「お金」と「宗教」と「捨て犬」とそれ以外、それぞれが大切にするものは何かを浮き彫りにする。一体どこが始まりでどこが終わりなのか。ひどく絡んだ糸がほぐれていくような爽快感を感じられる作品だ。

 

『マリアビートル』角川文庫(2013年)

息子を殺され仇討ちを目論む父親、裏社会で活躍する腕利きのコンビ、不運に憑りつかれた殺し屋。東北新幹線内で繰り広げられるトランクの奪い合いと、思いもよらない数々のトラブルと殺し屋七尾の救いようの無い不運。3つの目線から見る事で、少しずつ輪郭がはっきりしてくる問題と共に、終点で問題は決着する。物語はどのようなラストを迎えるのか。最後まで先の読めない高揚感を抱ける作品だ。

 

『首折り男のための協奏曲』新潮文庫(2016年)

「首折り男」はバランスをとる為に時々人を助ける。短編集であるが、それぞれの物語のキーパーソンとなるのがこの男。彼のストーリーは描かれず、他の登場人物の物語によって浮かび上がってくる。「天網恢恢疎にしてそこそこ漏らす」。人生は時々救われる。肩の力が抜けるような気持ちの良い作品である。