おすすめ図書の紹介(2019年5月)

 私が紹介するのは上橋(うえはし)菜穂子(なほこ)著『精霊(せいれい)の守(も)り人(びと)』です。著者の上橋菜穂子さんは2014年に国際アンデルセン賞の作家賞を受賞したことで話題になったので、ご存知の方も多いと思います。
 元々は児童書ですが、今では大人にも親しまれています。私も娘が中学生の時に一緒に読んだ思い出の本です。娘が友達に貸すと、その親御さんも読むので、なかなか返ってこなかったことを覚えています。
 主人公のバルサは30代の女用心棒という、児童書には珍しい設定です。ある日バルサはひょんなことから新ヨゴ皇国の第二皇子(おうじ)であるチャグムの命を救います。実はチャグムは精霊の卵を宿しており、父である帝(みかど)はそれを疎み、刺客を差し向けてきます。また、異界の魔物からも命を狙われます。チャグムの母・二ノ妃(にのきさき)からチャグムを助けてほしいと頼み込まれたバルサがチャグムを守るため幼いチャグムを連れ王都を飛び出すところから物語が始まります。
 この物語はシリーズになっていて、『精霊の守り人』から始まり、『闇の守り人』『夢の守り人』『虚空の旅人』など、その後もまだまだ続いていきます。
 このシリーズの魅力はなんと言ってもその世界観の奥深さだと思います。様々な国が出て来ますが、どの国も政治や思想、統治の仕方の違いなどが明確に書き分けられ、実際に存在する国の話をしているかのようなリアリティを感じることができます。そうかと思うと、現実世界(サグ)と重なって存在している、精霊たちの住む、ナユグという異界も描かれています。これは上橋さんが文化人類学者としてアボリジニの研究をされているということも関係しているのかもしれません。
 シリーズのうち、「〇〇の守り人」はバルサの物語、「〇〇の旅人」はチャグムの物語です。幼かったチャグムが成長していく姿も見どころの一つです。みなさんもぜひバルサとチャグムと一緒に冒険の旅に出てみてください。

 (M)