おすすめ図書の紹介(2019年11月)

『覇王(はおう)の家』 司馬 遼太郎 著
 信長・秀吉・家康という3人の戦国武将の中で、私は徳川家康が何となく好きで、大河ドラマに家康が出てくると、それがたとえ敵役であったとしても親近感を抱いてしまいます。その家康を主役にして、1970年頃に司馬遼太郎が執筆したのが本書です。ちなみに、司馬遼太郎は本書を執筆した時期、並行して『坂の上の雲』の連載もしていたようです。私は学生時代に『坂の上の雲』を読み、感動し、その作者が家康を主役に小説を書いていたことを知ると、勇んで本書を購入しました。
 しかし、司馬遼太郎は家康に辛辣でした。「家康は史上比類のない打算家であった」「信長のような卓然たる理想ももたず、日本の社会に何をもたらそうという抱負などかけらもない男」「家康は自分のもっている想像力のすべてを動員しても秀吉のもっている天才を理解することができなかった」など。 そして、「本来、どれほどの創造力ももたず、むろん天才でもなかったこの人物が、この乱世のなかで多くの天才たちと戦ってゆくには、こういう自分をつくりだすほか手がなかったのかもしれなかった。」とも書いています。
 しかし、この点こそが本書の見所であり、読みごたえのある部分でした。凡人家康が信長・秀吉といった天才たちと戦うために、どんな自分を、如何につくりだしていったのか。そこに家康の凡人としての苦労があり、その痛ましい苦労を通して、私はさらに親近感を感じることになりました。

(本部事務局 岩澤(いわさわ))