おすすめ図書の紹介(2021年1月)

『優しい死神の飼い方』 知念 実希人 著 光文社文庫
 「優しい」「死神」「飼い方」と並んだ単語の組み合わせの意外性と違和感。なんとなく興味を引かれて手にとったのを覚えている。
 とあるお屋敷を改装して建てられたホスピスに「我が主様」から派遣された死神。ゴールデンレトリバーの姿にかえて、それとは知らぬ心優しい看護師に助けられながら、死を目前にしてこの世に大きな未練を抱えた患者に寄り添いその未練の根源を探っていく。そこにこの町で「吸血鬼?」と噂された家族におきた7年前の殺人事件が絡んでいく。ミステリー仕立てなのであまり多くは語れないが、ひとり一人の患者に感情移入しながら心の澱がすうっと流され癒されていくのを感じた。ミステリー仕立てではあるが、心温まる内容で救いがあるところもよかった。作家が現役内科医だということも興味深い。よろしければご一読を。

(事務局 K)

『父の肖像』 辻井 喬 著  新潮社
 著者の「辻井喬」はペンネームで、本名は堤清二と言い、かつてセゾングループのオーナーだった人です。本書は、著者の父であり、西武グループの創業者でもある堤康次郎の生涯を描いたものですが、小説のため、主人公周辺は仮名が使われています。長編小説ですが、主人公の執念と業(ごう)の中で、西武グループが成立する過程が描かれており、その後、同グループの同族経営が破綻する遠因も読み取ることができます。

(事務局 岩澤)

『西の魔女が死んだ』 梨木 香歩 著 新潮文庫
 主人公・まいの大好きな”西の魔女”が死んだ。そんな冒頭から始まる、まいと西の魔女との穏やかで少し不思議な日々の思い出の物語。なぜ、まいは西の魔女と暮らすことになったのか。なぜ、まいは西の魔女が大好きなのか。そして、西の魔女とは。
 ほどよい文章量と、まいの視点で綴られる柔らかい言葉の数々のおかげで、読書力の低い筆者も吸い込まれるように読めました。まいの後日談も語られており、西の魔女が死んだあとも、まいの物語がきちんと続いていく様を垣間見れます。短編好きな方、ぜひとも。

(とある事務員のおすすめ図書とやや斜め右方向からの解説)