おすすめ図書(2021年8月)

『榎物語』(『夜の辛夷』より)山本 周五郎 著 小学館 2010年
 時代小説は苦手だったけれど初めての山本周五郎で「榎物語」を友人にすすめられるまま読んでみた。時は江戸時代。庄屋を勤めていた河見家の長女さわと、下男で雑役の国吉の出会いから始まる。さわは、躰がひよわく器量に乏しかった。一方、国吉は男ぶりがぱっとせず、負けぬ気ばかり強く、人に親しまなかった。両親や周囲から拒絶感を抱いている二人にはどこか共通するところがあり、早くからお互いの間に、哀れなというおもいがひそかに通う。そんなとき、山津波が押し寄せ、そこにいた人々の暮らしが流転する。抗えない自然の力で「時」と「情」が翻弄される。先日熱海市で起きた大規模な土石流と登場する山津波とが重なる。災害で生活が一変する様と時代が交差する。

(御園 政光)