おすすめ図書の紹介(2022年8月)

『それは桜のような恋だった』 広瀬 未衣 著 双葉文庫 2018年
 主人公は、春になるとなぜか目の前からいろいろな物が消えて、みんなに気味悪がられてきた男子大学生。恋愛を避けてきたが、桜のような人と恋に落ちる。
 ページ数の割にスラスラと読めてしまう本。最初はありきたりのラブコメかと思っていたが、主人公が京都でアルバイトを始めるシーンから、ぐっと入り込んだ。まるで京都観光に行っているかのような感覚になった。永観堂のシーンは読み応えあり。本堂の阿弥陀如来像は、顔をななめ後ろに向けており「みかえり阿弥陀」と呼ばれているが、その由来はこの本で初めて知った。なぜ桜なのか、なぜ目の前から物が消えてしまうのか、徐々に明らかとなっていく。ゆっくりとした時間の流れと京都の空気感と季節が織りなして独特のふんわりとした気持ちになる。最後まで読み終え、穏やかな気持ちになった。

(御園)