おすすめ図書の紹介(2022年12月)
『東京奇譚集』(村上 春樹 著) 新潮社 2007年
偶然に導かれるような体験をしたことはありますか? 私は、学生の頃にそういう体験をしたことがあります。東京奇譚集は、ものすごく不思議というほどのことではないのですが、どうしてそんなことが起こり得るのか説明が思いつかないような5つのお話があります。読んだ後に、すっきりするようなしないような感覚が残るかもしれませんが、ぜひお試しください。
(なるた)
『春に散る 上・下』 沢木 耕太郎 著 朝日文庫 2016年
主人公広岡仁一は、不公平な判定で負けアメリカへ渡る。再起をめざすがかなわず、落ちぶれた生活に身をやつしたあと、ホテルで働き始め成功。その後。体調を崩し40年振りに日本に帰国した。広岡は、偶然飲み屋で、同じく不公平な判定で負けて心が折れていたボクサーの黒木翔吾とあい、殴り合いのケンカをする。そして広岡に人生初ダウンを奪われた黒木翔吾はこのことをきっかけに、仁一にボクシングを教えて欲しいと懇願。やがて二人は、世界チャンピオンを共に?指し、“命を懸けた”戦いの舞台へと挑んでいく――。そして、試合の後、広岡は、桜の花びらがちるなかで、静かに目をとじる。主人公が、体調をくずして絶望的になってからの一年間をどういきていくか? その場所にいまいる在り方のお話しに、感動しました。今、自分がここにいる。意味があってここにいる。まだまだ自分が小さい人間だなぁと思います。今あるもの、人生のありかたを考えさせられました。
(大矢)
『ホテル・ピーベリー』 近藤 史恵 著 双葉文庫 2014年
いつかは行ってみたいと思っていた「ハワイ島」を舞台にしたミステリーというところに惹かれてこの本を手に取ってみた。主人公は何か事情のありそうな元小学校教師。友人の勧めで一度しか泊まれないという個人経営で長期滞在型の「ホテル・ピーベリー」に宿泊することに。そこでは、自分同様、様々な事情を抱える宿泊客たちが真の姿を偽りながら滞在していた。また経営しつつすべての業務をひとりでこなす女性とも出会う。やがて連続して2件の殺人事件がおきる。主人公は、宿泊客の真の姿を探り始める。そして一度帰国した主人公は真実を確認するため再びハワイ島に降り立った。いったん、人生の目的を見失ってしまった主人公が次のステップで見たものは何だったのか。そんな思いで読み進んでいった。ちょっと大人っぽいミステリー。
(川野)