おすすめ図書の紹介(2019年9月)

『ろくべえ まってろよ』 灰谷(はいたに) 健次郎 著
 この作品は、学校の先生などに限らず教育という言葉に関心のある人に広く知られている灰谷健次郎の著書です。八篇の童話を収録した一冊で、特に表題作の「ろくべえ まってろよ」は小学校の国語の教科書にも載っていた作品です。
 犬のろくべえが穴に落ちてしまい、それを助けようとする1年生の子どもたち。大人たちに助けを求めても何も手を貸してくれず、子どもたちだけで知恵を絞り合いろくべえを助けるストーリーです。短編作品ですが、この作品を読むと「はっ」と気づかされます。
 私たち大人はすぐに「出来ること」と「出来ないこと」を線引きしてしまいます。様々な仕事を進めるためには物事を効率的に分別する必要があるのでしょう。ですから、ろくべえの落ちた穴が深いと知った大人たちは犬を助けられないと考えました。しかし、子どもたちは「出来ること」「出来ないこと」で分けるのではなくて、「やりたいこと」「やりたくないこと」といった自分の感情に素直な考え方をします。「ろくべえを元気付けたい」、「ろくべえを助けたい」、「ろくべえを死なせたくない」。ですから皆で頭を突き合わせながら、最後には子どもたちだけでろくべえを助けることが出来ました。
 他の作品でもやはり子どもたちの素直な感情が溢れています。大人が守ってあげなければいけない、正してあげなければいけないと考えている子どもたち。でも実はそんな必要は無いのかもしれません。自分たちで色々なことを考え、感じ、そして行動していく。大人以上に行動的で解決能力もあるように感じます。全てのことに一喜一憂する姿はほほえましいだけではなく、輝かしくてとても羨ましく思えます。「この子たちと同じ頃に戻りたい」と誰しもが思うのではないでしょうか。
 灰谷健次郎の作品は、全ての作品において子どもたちの瑞々しい日常が描かれています。懐かしい子ども時代を思い出し懐かしんだり、または今の自分に足りないものを見つけたり。人によって様々な読み方が出来る作品たちです。ぜひ、少しのんびりとした時間が取れたときにでも読んでみてください。

 (ワークショップ四街道 伊藤 和正(かずまさ))